GUEST INTERVIEW

2024.12.23

自分軸で発案・実行:社内パーティー開催から垣間見た、JT(日本たばこ産業)パーパス浸透への道筋

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2023年、グループパーパス「心の豊かさを、もっと。」を発表したJT(日本たばこ産業)。「JTには企業パーパスの共感に基づいて、この社会をどうしていきたいかという視点を持って入社してくる人が多い」とは、FC今治によるBCUプロジェクトのインタビューでお会いした人事部の矢野いずみさんの言葉です。
そんなJTで、200人を超える社員が参加した組織横断的なコミュニティネットワーキングイベントとして、この秋バーベキューパーティーが開催されました。パーパスの具現化を目的に、若手社員が中心となって「自主的」に企画、運営された点が特徴です。
抽象度の高い企業パーパスを、社員一人一人が捉える機会となったこの活動の事務局を担った若手社員の伊藤菜々子さん、野中涼子さん、原愛美さん、そして彼女らを応援した管理職の川合一郎さんに、詳しいお話をお聞きしました。(インタビュアー:SMO 齊藤 三希子)




JTパーパスは北極星のような「目指すべき存在」


齊藤:はじめに、皆さんにとってJTグループのパーパスである「心の豊かさを、もっと。」というものは、どんな存在なのでしょうか?

原さん:私にとってはいわゆる会社にとっての志や夢という位置づけです。JTでは、パーパスをJTが向かっていくべき北極星というふうに表現しています。言葉としてはすごく綺麗ですが、北極星って凄く遠くの恒星なので、光が届くのに431光年かかるんです(笑)。タイムラグがどうしても発生するという意味で、パーパスを掲げたとしても、それが従業員1人1人に浸透していくまでには、時間がかかるものなのかなと思っています。
ですが、北極星が人類の経験値として何百年も伝えられてきたように、いずれは周知のものとして広まっていけばいいと感じています。言語も文化も異なる人たちが、同じ方向を目指すための指針としてきたもの(が北極星)なので。
我が社もすごくグローバルで、本当に多様なバックグラウンドを持つ人々が、同じ場所を目指すものとしてパーパスが機能していると思っています。

伊藤さん:私が入社の当時は「心の豊かさを、もっと。」という今のパーパスではなかったんですが、(その当時からすでに)そういう人の内面に着目してその豊かさを育むことを大事にしている会社でした。弊社のパーパスは2023年に策定されたものですが、「心の豊かさ」というキーワードは1968年あたりからJTにあったものです。ですので、最近になって社内でぽっと出てきた言葉ではなく、昔からずっとあるキーワードを改めてパーパスに組み込んだ形ですので、会社の根本部分にずっとあるものなのだと思います。学生時代私は音楽をやっていて、生きるためには必要ではないかもしれないけど、心を豊かにするために、私にとっては必要というところを大事にしていたので、それを世間に発信しているところが、私がJTへ入社した時の動機だったのです。何のためにこの会社いるんだっけ?何がしたかったんだっけ?というのを考えるにあたって、パーパスをもう一度思い出すと、私の日々の仕事のモチベーション上げてくれています。

野中さん:他にも、JTのパーパスが、グループへの帰属意識を高めるものになっていると思います。今、私はセールスグループにいるのですが、所属が違ってもやはり目指すところやパーパスは同じだと感じているので。個人的な見解になりますが、パーパスは上から降ってきて、それがあるからやるとか覚えるというような感じより、内面化されて、社員の普段の行動に表れるというのが理想だなと思っています。「心の豊かさ」というのは、普段社員の方と休憩所で雑談したり、コーヒーを飲んだりしながら育まれるものだと思うのですが、言語化してみると、「人との繋がりをとても大事にする」という点に行き着くように感じています。

川合さん:伊藤さんが言う通り、JTのパーパスは突然外部から与えられたものではなく、すぐれて内発的な発想から生まれたものだと考えています。パーパスの策定プロセスにおいても、ボトムアップとトップダウンの双方向で数年にわたって議論を重ね、もともとJTに内在したDNAをさらに言語化していきました。実は1985年にJTが民営化した当時の経営の指針の中に、既に「心の豊かさ」という文言が明記されていました。つまりJTのDNAに常に存在していた心の豊かさという言葉を改めて言語化し、より多くの社員がそれを共有して意識的にそれに向かっていこうという、過去との連続性の強い概念が今回のパーパスだと思っています。

パーパスの浸透に社内SNSとタウンホールミーティングを併用


齊藤:みなさん(最初から)馴染みはあったということですね。その上で研修など、浸透させるための活動もいろいろあったのですか?

伊藤さん:そうですね、社内SNSがありまして、そこから社長の言葉でこういう意図で(パーパスを)策定しました、という説明を受けました。

野中さん:JTのたばこ事業では「Behavior」(行動指針)が作成されているんですが、それを使ったワークショップを、各チームでパーパスが策定された時に行いました。

川合さん:JTでは、グループパーパスの下に各事業のパーパスもそれぞれあり、さらに行動指針があります。
パーパスに紐づいて具体的に社員が取るべき行動指針については、各役員が部門単位で社員と対面し、ボトムアップ形式での議論をした上で策定していくというプロセスを、コーポレート部門では実施しています。

パーパスの浸透にあたっては、社長や副社長がタウンホールミーティング形式で社員を集め、直接想いを語ったり社員からの質問に率直に答えたりするような双方向の意見交換の場も設けました。社内SNSも大いに活用しました。支社や工場、グループ企業などにも精力的に訪問するなど、トップマネジメント層が時間をかけて粘り強く地道に取り組みを進めていった印象があります。

200人以上が各地から集まった社内バーベキュー大会




齊藤:こうした動きの中で、皆さんが主催されたバーベキュー大会があったという位置付けですよね。どのような経緯で、こちらを開催する流れになったのでしょうか。

伊藤さん:以前から、部署を超えた懇親会といった集まりが定期的に開催されていて、当時私自身東京から離れた場所にいたこともあり、新しい繋がりを作りたいという思いもあって参加していました。自分が知らない人と話すことがすごく楽しかったり、当時キャリアについても迷っていた時期だったので、イベントを通じて出会った人たちと壁打ちができたりしたことが、すごく刺激的だったんです。こうした経験を、次は後輩にも経験をしてほしいという思いがあって、今回は自分が恩返しのつもりでバーベキューを企画しました。

齊藤:なるほど。パーパスである心の豊かさを、社内で実現する目的と捉えていいのでしょうか。

伊藤さん:はい、パンデミックもあってなかなかコミュニケーションが取れない時期が続いていたので、やはり対面でコミュニケーションを取れる場を作りたいという思いから始まり、本社の色々な部署の方や、地方の人たちも集まれるような場として、みんなでフランクに会話をしていくことで帰属意識、そしてパーパスへの意識も芽生えていくんじゃないのかな、という思いがありました。

齊藤:蓋を開けてみれば、皆様同じように思っていらしたのでしょうか。

伊藤さん:当初は100人ぐらい集めたいと始め、社内SNSで「誰でもどうぞ」と呼びかけていきました。そしてどんどん連鎖していって、結果200人以上が集まった形になります。自然という部分もありますが、役員の皆様には個人宛にメールで直接アタックをするという大胆な行動も取ったりしました。送信ボタンを押すときは、かなり緊張して(笑)。仕事でもやったことのないチャレンジングなことを、ここまでやろうという気持ちになったのは、運営メンバーの気合いだと思います。

原さん:お肉の絵文字入れて送ったら、ニコちゃんマークみたいなので返ってきました(笑)。いわゆる部署の区別はない感じで、一般社員の方も、部署や勤務地の区別なく、東京近辺だけでなく遠方だと京都や群馬からも来てくれました。


組合さえ共感した年次問わず社員が集まる場


伊藤さん:あとは年次問わずというところも大事だったなと思っています。仕事とはちょっと違う空間で、年齢とか上下関係なく交流しましょう、いろんな人と話してみましょうと。こういう機会は本当に若手にとっては刺激的でした。

齊藤:素晴らしい。会ではバーベキュー以外に何か催しとかもあったのでしょうか?

野中さん:最初は本当にバーベキューをして交流しようという企画だったんですが、今弊社で一番注力している加熱式たばこ「Ploom」のディレクターをお呼びして、新商品のお試しと合わせてプレゼンを行うことになりました。社員のPloomに対する意気込みやモチベーションを上げるきっかけを作りたかったんです。イベントの中では、社長からも一言お言葉をいただきました。あとは弊社の中東や北アフリカなど海外で取り扱っている水たばこ製品(シーシャ)も持ってきてお試し会もしました。

伊藤さん:本当にいろんな部署の方が共感してくださって参画してくださいました。あとは「組合」が今回参加費の一部を出していただくという初めての試みがありました。社内からも驚きの声で、よくできたねって言われたのですが、組合もみんなで集まる場がなかなか提供できてないことが課題だったということで、こういうものを一緒にやりませんかと声をかけさせてもらったら、ぜひぜひと反響を得られた形です。ですので、組合員の方はお安く参加できたというのも、一つ参加のハードルが低くなったのかなと思います。

人のためになりたい人が多いと感じた運営ボランティア集め


齊藤:役員にメールをしたり、組合からお金を出してもらったりと、皆さんの心を豊かにするというモチベーションが、みんなを動かした感じがします。運営は何人いらしたのですか?

伊藤さん:10人ちょっとですね。受付であったりバーベキューの火おこしをやってくださったりとか。200人集まる会場のセッティングが大変だったので、運営メンバー募集!とお声掛けをしたら、やりますと言って自主的に参加してくださる方たちの協力を得られたので、そこもすごくありがたかったです。人のためになりたいみたいな思いを持つ人も多いなぁと感じました。

齊藤:すごいです。やはり社風が素晴らしいんですね。皆さん集まられて、パーパスの話ってされたりしましたか。

野中さん:当日はできてなかったんですが、バーベキュー終了後に、例えばサステナビリティマネジメント部の部長から社内SNSで「世代だけでなく部署の垣根を超えた素敵な企画ありがとうございました」と言ったコメントをいただいたり、パーパスと同じようなところに共感してくださって、すごくいい取り組みだったというお言葉をいただいたりしました。

伊藤さん: LinkedInに投稿した時のリアクションがかなり大きく、いいね!の数もそのときの投稿の中では、トップに入る反応がありました。「人との交流が改めて大事なんだなと気づかされました」というコメントも頂いたので、(こちらが意図したように)楽しんでいただけて、イベントを通じてパーパスである心の豊かさを感じ取ってくれたのかなと思います。

齊藤:開催するにあたって大変だったことってありますか?

野中さん:想定を上回る参加者数になってしまったので、事務局がパンクしてしまったのが大変なところでした。そこからやるべきことを振り分けて、皆さん開催に向けてやってくださったので助かりましたが、実際業務ぐらいのボリューム感でした。

伊藤さん: 量もそうなんですが、私達まだ入社6年以下なので、知り合いがそれほど多いわけではなく、初めましての方に、「すいません、こちらをお願いできないでしょうか」という調整がすごく大変でした。でもそこからまた新しくできたつながりもあるので、やってよかったなと思います。

これからも続けたいパーパスの共感と人が集まる場


齊藤:今後はまたバーベキュー大会なのか、もしくは他の方法でパーパスを社内もしくは社外に伝えていきたいっていうのは何かありますか。

野中さん:今回はたまたまバーベキューでしたが、JTのパーパスに共感した何らかの人の集まりが、1回限りでなくて複数回にわたって行われることで、いろいろな方がいろいろな観点で着目されると思うので、そういった多種多様なことが起こるイベントみたいなものは続いていくことが、パーパスの浸透にとっても、重要かなと思います。

川合さん:多分大変だったので、明日にでもやりたいという感じではないと思います(笑)

伊藤さん:バーベキューというイベントとかっていう形に限らず、自然と発生していくのが、一番理想かなと。

齊藤:そうですよね。今回の運営メンバーだけじゃなく、全然違うところからもいろんなところで発生するといいですよね。多分皆さんがやられたことが、あ、「こういうことなんだ」という一つの見える形のモデルになったと思うんです。こういうのをやっていいんだとか、パーパスの「心の豊かさ」ってこういうことなんだなというのが多分わかったと思うので、きっと皆さんにとっても、とても良い刺激だったんじゃないかなと思いますね。

原さん:自分個人としても、バーベキューの場で普段絶対話さないような人にも自分から話しかけに行ったので、小さいコミュニケーションを大事にしたいと思って、普段少しすれ違った人や休憩所でご一緒した人に話しかけてみるといった、日常で少しだけ行動を変えてみることから変えていこうかなと思っています。

齊藤:いいですね。それがきっと先にすごい力になっていくんだろうなと思います。

マネジメントも応援する新しい機運を生む若手の行動


齊藤:今回新しい取り組みをすることに対して会社側の反応はどういう感じだったんでしょうか。

野中さん:社内のマネジメントの方々の反応は、すごくポジティブでした。まず若手が集まって何か新しい行動を起こそうとすることに対して、「応援している」と声をかけてくださったり、よりよく進めるためのアドバイスをくれたりする環境なので、そこは本当にありがたいなと思います。
例えば、新しい取り組みをする際に、マネジメント意思決定者に先に頭出しをしてくださったり、こういう方にアドバイスもらった方がうまく進むよと紹介してくださるといった動きをしてくれます。

齊藤:本当にグローバルで色々な人種がいて、様々なカルチャーの中でやっているという上で、若いっていう新しいチャレンジするみたいなところも応援するという社風があるんでしょうね。すごくいいですね。

伊藤さん:意思を持って行動することに、すごく賛同して背中を押してくれる人が多いですね。今はもう自分で何もかもつかみ取る時代になっているなと思うので、根拠をきちんと述べられた上で、自分の「やりたい」を通せば、そこに否定をする人はいないかなと思います。

齊藤:そういう新しいチャレンジも心の豊かさと密接に繋がっているのですね。

J T若手社員の方にお聞きした「マイパーパス」


齊藤:最後に、今回、会社のパーパスをみなさんが共有していくという大きな流れの中で、「パーパス」というもの自体を考える機会もあったかなと思うのですが、ご自身の生き方、働き方のところでマイパーパスがあったら教えてください。



原さん:私としては、また一緒に仕事をしたいと思ってもらえることですかね。シンプルではあるんですが、やはり人と一緒に仕事をする上で最後はそこに尽きるのかなという風に思っています。

野中さん:私のマイパーパス、仕事に限らずですが、元々入社のきっかけに「自分の好きなものを、自信を持って好きと言える社会を実現し、維持したい」という思いがあって嗜好品の会社に入っているので、今回のバーベキューでも「お互いの好きなものを否定しない」とか「人との繋がりを大事にする」というところから始まるかなと個人的には思っています。
普段の日常生活でも、業務中でも、相手を否定せずに人それぞれの大切にしているものを思いやって過ごして、最終的には社会全体がそうなればいいなと思いながら働いています。

伊藤さん:私はグローバル化だったり、多様化が進む社会において、その人を尊重するというところですかね。広報という仕事と結びつけると、いろんな価値観を尊重し、発信していく、そこがパーパスとしてあります。海外に住んでいたときに、いろんな国籍の人と関わって、私が日本人であるにもかかわらず、すごい皆フランクに話しかけてきてくれて、知らないこと、知りたいことをどんどん聞いてくれるような環境にいて、すごく素晴らしいことだなと思ったことを覚えています。その時「知らない人を知る」ということに興味が芽生えたので、バーベキューで知らない人に来てもらう、知らない人に声掛けをするといったことをやりたいと思ったのも、そこが根幹にあるのかなと思っています。引き続き広報という仕事で、発信して、そういう価値観の尊重みたいなところを目指していきたいなと思います。

齊藤:パーパスが掲げる抽象的なものを、お一人お一人が日々の仕事だけでなく、仕事を超えた関係性作りをパーティーという形で具現化することに成功した皆さんの行動には大変驚かされました。今日はたくさんのお話しをお聞かせくださって、ありがとうございました。
(文:Yukie Liao Teramachi)

(トップ集合写真の順に、向かって右から)


伊藤 菜々子(いとう・ななこ)
IR広報部
2022年入社。静岡支社で2年間営業を経験後、IR広報部に所属。現在は、海外マスメディア、
国内民放、英文メディアモニタリング、英文リリース対応などを担当しています。


川合 一郎(かわい・いちろう)
IR広報部 
1998年入社。JT人生の半分にあたる13年間をIR広報部で過ごしてきました。
現在では、国内・海外のマスメディア対応、ビジネスSNSであるLinkedIn運営などを担当しています。


野中 涼子(のなか・りょうこ)
セールス東京支社 港区担当
2019年入社。ロジスティックス・渉外(企業の喫煙場所創出)・ルートセールスを経験し、
現在は港区エリアのプロモーションから地域リレーションに至るまでの総合営業をおこなっています。


原 愛美(はら・まなみ)
IR広報部
2024年入社。国内マスメディア、プレスリリース、アンケート対応などを担当しています。


 

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